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EST · 2026

AIの責任者を、誰が担うのか。磐田市長がCAIOを兼ねる理由

磐田市長がCAIOを兼ねる理由を、サミットの記録から読む

AIの責任者を、誰が担うのか。磐田市長がCAIOを兼ねる理由

組織にAIの責任者を置くとき、その席には誰が座るのか。情報システムの担当役員か、新しく設けたAI推進室の長か。それとも経営トップ自身か。

静岡県磐田市の答えは、市長本人だった。2026年8月27日の AX for Revenue Summit 2026 で、草地博昭市長はその理由をオンラインで語っている。本稿はそのケースノートだ。公開済みの開催レポートから記録を引き、本誌編集部の読みを添える。

AX for Revenue Summit Zero 2026 静岡県磐田市 草地博昭市長
オンライン登壇する磐田市の草地博昭市長と会場の宇都宮竜司

この記事の読み方

引用ブロックは、すべて『AX for Revenue Summit 2026 開催レポート』(axfr.ai)から原文のまま引いた。登壇内容をまとめた報告の文章であり、発言の書き起こしではない。

引用の外の文章は、すべて編集部の解釈である。記録と解釈を分けて置く。それが本誌の書き方だ。


1. 人が減っても、仕事は減らない

浜松市の東隣に位置する磐田市の人口は、現在およそ16万人。講演資料によると、2065年には約11万人と、今より約5万人少なくなる見通しです。職員の確保が難しくなる中で、子育てや福祉、防災など、市民が行政に求めるものは多様化・複雑化しています。

この状況に対して磐田市が掲げたのが、「少数精鋭」から「少数×AI」への転換です。これまでは少ない人数で仕事を回すために、個人の努力や我慢に頼ってきた面がありました。定型的な作業に時間を取られる中で、さらに人が減ったとき、同じやり方を続けられるのでしょうか。AIをチームの一員に加え、仕事の進め方そのものを変えようとしています。

編集部の読み 「少数精鋭」は、人が減っても同じやり方を続けることを前提にしていた。頑張りで穴を埋める発想だ。「少数×AI」はその前提を降り、やり方のほうを変えにいく。

出発点は、人手が一時的に足りないことではない。人が戻ってこない、という見通しである。この違いは小さくないと本誌は考える。

2. CAIOは「配置を決める人」の役職だった

一方で、職員にAIの導入を伝えると、人員削減のためではないかと受け止められることもあります。市長が説明したのは、余力が生まれた人を別の仕事に配置し、市民に寄り添う時間を増やすという考え方でした。

人をどこに配置するか、どの部署の仕事を見直すかは、一つの担当課だけでは決められません。市長は、この全体のマネジメントを担うために、自らCAIOを務めていると説明しました。AIを使う話は、そのまま市役所の経営の話でもあるのです。

対談で宇都宮が改めて尋ねたのは、市長自らCAIOを兼務する背景でした。草地市長の答えは、自治体経営の仕組みを作るのは選挙で選ばれた自分なのだから、AIを脇に置いておくわけにはいかない、というものでした。

編集部の読み この記録で目を引くのは、CAIOの仕事が技術の選び方ではなく、人の配置の判断として語られている点だ。AIで生まれた余力を、どの部署から引き、どこへ振り向けるか。担当課の権限では、そこまで動かせない。

だからAIの責任者は、配置を決められる人でなければ機能しにくい。本誌はそう見る。磐田市では、それが市長だった。

肩書きがCAIOでも、本誌が扱ってきたCAXOでも、問われている権限は同じだろう。企業の経営者にも、そのまま持ち込める論点である。

3. トップのためらいは、組織に伝わる

組織のトップが自ら学ぶことの意味は、企業経営をめぐる問いにもつながりました。草地市長は、経営者が自分にはAIを使えるのかとためらえば、組織全体もためらってしまうと指摘しました。部下がAIを使って成果物を作っても、普段AIに触れていない経営者がそれを疑ってかかれば、部下はAIを使わなくなってしまいます。

だからこそ、トップが日頃から使う必要があります。とはいえ、トップ一人が使えば十分というわけではありません。市長は、部長など経営層全体で新しい使い方を学びたいと話しました。磐田市ではすでに全職員にAIのアカウントがあり、日常的な利用をさらに一段、二段と進めていく段階だと説明しました。

多忙な市長にとって、2日間の予定を空けるのは簡単ではありませんでした。それでも職員と相談して参加したのは、自分が先に受けなければ職員にも広がらず、自分自身もアップデートされないという思いがあったからです。

編集部の読み ここで語られているのは、AIの使い方というより評価の問題だ。成果物を受け取る側がAIを知らなければ、AIを使ったこと自体が不利に働く。現場の利用は、上に立つ人の理解を超えて広がりにくい。本誌はそう読む。

トップが使うのは、旗振りの演出ではない。部下の成果物を正しく受け止めるための前提条件だ。経営層全体で学ぶという話に続いたのも、その流れで見れば自然である。

4. 研修で終わらせず、業務の通り道に置く

では、アカウントを配った後、実際に使ってもらうために何をしているのか。宇都宮が尋ねると、草地市長は、資料作りや議会答弁の準備などで、まずAIと一度壁打ちをしたかどうかを職員に確認するようにしていると答えました。研修で使い方を覚えて終わりにせず、業務の流れの中にAIと考える機会を組み込んでいるということです。

その一例が「AI市長ボット」です。磐田市は連携企業と共同で、市長の思考パターンや発言スタイルを学習したボットを開発し、市長への説明に向けた事前準備などで使っています。市長室に資料を持ち込む前に、まずボットを相手に壁打ちをしてもらうという使い方です。

市長からは、今のボットは優しすぎるので、もう少し厳しくしてほしいという話も出ました。

編集部の読み 二つの工夫に共通するのは、使うかどうかを個人のやる気に任せていないことだ。「壁打ちはしたか」という問いも、市長室の手前に置かれたボットも、仕事の通り道にAIを置いている。

「優しすぎる」という注文も面白い。AIを清書や承認の道具ではなく、考えを鍛える相手として置こうとしているように見える。もっとも、厳しくなったボットが職員の仕事を実際にどう変えるのか。そこはまだ記録の外にある。

5. 慎重さと実践を、同時に持つ

ただ、行政には慎重に扱うべき情報があります。草地市長は、自治体が持つ税や健康などの個人情報が外部に流出するリスクへの懸念を挙げました。どのデータをどう扱うかは大きな課題であり、まだ未知の部分もあると話しました。

その一方で、観光やスポーツなど、取り組める領域もあります。データの性質を見極めながら、チャットで考えたり、システムやアプリを作ったりすることは進められるのではないか、と市長は考えています。個人情報の扱いへの慎重さと、試せる業務で実践を重ねる姿勢。市長はその両方を語りました。

編集部の読み 慎重さを理由に全体を止めるのでも、勢いで全部に広げるのでもない。データの性質で線を引き、試せるところから進める。機微な情報を抱える企業にとっても、参考になる線の引き方だろう。

6. 職員だけを育てても、まちは育たない

企業では、人材の力を高める人的資本経営が重視されています。市長はこれを一歩進め、自治体が職員だけを育てても、まち全体の成長にはつながらないと話しました。地域の事業者やコミュニティにもAIや新しい技術が入り、それぞれが使えるようになることが必要だというのです。

そのとき行政が担うのは、制度やルールを管理する仕事に加え、人や組織をつなぐ役割です。行政には地域に関する情報があり、企業や団体との接点もあります。市内の企業と外部の企業を結び、農業、医療、スポーツ、子育てなど、地域のさまざまな分野で新しい取り組みが生まれるようにしていく考えです。市長は、自治体を地域の触媒、コーディネーター、そして設計者と位置づけています。

編集部の読み 企業に置き換えると、AIの取り組みを自社の組織図の内側で閉じない、という発想になる。取引先や地域の事業者まで含めて力を高め、その結び目に自らが立つ。市長は行政にその役を与えた。

自社のAIの取り組みは、組織図の外まで届く設計になっているだろうか。本誌が読者に返したい問いの一つである。

7. 速さは、自分で示せる

草地市長は、まちごとにさまざまな特色はあっても、スピードは定量的に評価できると説明しました。企業から直接メッセージが届いたら、会議中などを除き、できるだけすぐ、通常は一両日中に自分で返すようにしていると話しました。

編集部の読み 返信の速さは、トップが自分ひとりで示せる数少ない数字だ。AIの責任者を自ら兼ねる判断と、窓口として自分で返す習慣。この二つは、同じ考え方から出ているように見える。


まだ答えの出ていないこと

本誌は成功事例を集めない。集めるのは、試みと判断の記録だ。磐田市の取り組みも途上にある。このケースから、経営者に返したい問いを五つ置いておく。

  • 自社でAIの責任を負う人は、人の配置を決める権限を持っているか。
  • 経営層は、部下がAIで作った成果物を正しく評価できるほど、自分で使っているか。
  • 研修の後、仕事の通り道に何を置いたか。
  • AIで生まれた余力を、誰が、どこへ振り向けると決めるのか。
  • 取り組みの範囲は、自社の外まで届いているか。

本誌はこの記録をケースボックスに収め、続きを追う。


開示

本誌の発行元である AX for Revenue Institute は、株式会社アルファドライブに属している。同社はこのサミットの主催者で、対談の聞き手を務めた宇都宮竜司は同社グループの執行役員である。磐田市と同社の関係について、開催レポートは次のように記している。

サミットの直前には、磐田市がAlphaDriveとともに、地域でAXアーキテクトを育てる2日間の実証プログラム(研修)を実施しました。草地市長もこの研修に参加したばかりでした。

出典

『AX for Revenue Summit 2026 開催レポート』AX for Revenue Institute(axfr.ai、2026年10月公開)
https://axfr.ai/blog/ax-for-revenue-summit-2026-report

関連:AX for Revenue Summit 公式サイト https://summit.axfr.ai/

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2026年10月23日8 min read