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作れるようになった後に、何が残るのか。JSOLのカスタマーゼロを読む

JSOLの「カスタマーゼロ」と、事業で使い続けるための仕組みを、サミットの記録から読む

作れるようになった後に、何が残るのか。JSOLのカスタマーゼロを読む

AIで、企画する人が自分の手元で動くものを作れるようになった。この変化はもう珍しい話ではない。では、作れるようになった後に、何が問われるのか。

2026年8月27日の AX for Revenue Summit 2026 で、株式会社JSOLの三尾幸司氏がこの問いに向き合っている。ソフトウェアの開発を本業とする会社の立場からの話だった。本稿はそのケースノートだ。公開済みの開催レポートから記録を引き、本誌編集部の読みを添える。

AX for Revenue Summit Zero 2026 JSOL 三尾 幸司
対談するJSOLの三尾幸司氏とAlphaDriveの麻生要一

この記事の読み方

引用ブロックは、すべて『AX for Revenue Summit 2026 開催レポート』(axfr.ai)から原文のまま引いた。登壇内容をまとめた報告の文章であり、発言の書き起こしではない。

引用の外の文章は、すべて編集部の解釈である。記録と解釈を分けて置く。それが本誌の書き方だ。


1. 作る人が、作れるようになった

麻生要一の基調講演に続いて登壇したのは、株式会社JSOL ビジネスデザイン&マーケティング部長の三尾幸司氏です。企業や自治体のシステム導入や事業開発を支援する立場から、AIでアプリを作る取り組みと、それを事業で使い続けるための課題を話しました。

続いて取り上げたのが、AIでソフトウェアを開発できる「Replit」です。日本語で作りたいものを伝え、チャットでやり取りを重ねると、AIがコードを書いてくれます。企画する人が、自分の手元でまず動くものを作れるようになってきました。三尾氏は、ソフトウェア開発を主な事業とする自社も、変わっていく必要があると話しました。

セミナーの企画とアプリ開発を並行して進めた例もありました。三尾氏の説明では、企画の時点でまだなかった機能を、開催までの期間に作っていく進め方でした。

編集部の読み 開発を本業にする会社が、自社も変わる必要があると言う。この率直さは記録しておきたい。

もう一つ目を引くのは、企画と開発の順番だ。企画が固まってから作るのではなく、企画を進めながら、まだない機能を作っていく。作る工程が短くなると、変わるのは速さだけではない。仕事の順番そのものが入れ替わる。

2. 動くことと、届けられることは違う

ただ、動くアプリができても、それをそのまま顧客に提供できるとは限りません。三尾氏は、試作品の次の段階として、サービスとしての品質確保と運用に話を進めました。AIの出力が本当に正しいか、安全性をどう確かめるかといった点では、人が判断し、確認する仕事が残ります。

基盤の図には、AIによる開発に加えて、クラウド上でアプリを動かす仕組み、認証、監視、データ基盤、運用や評価の記録までが並んでいました。作ったものを本番環境に移し、その後も使える状態を保つために必要な機能が、ひとまとまりに描かれていました。

後半の対談でも、麻生は商用化の段階で生じる問題を取り上げました。アプリを作れたとして、サーバーはどこに置くのか、データをどう扱うのか。新しいサービスを早く試す力と、安全に提供するための設計を、どうあわせて考えるか。麻生の問いは、そこにありました。

編集部の読み 作る速さが上がるほど、仕事の重心は「作る」から「届け続ける」へ移る。本誌はこの記録をそう読む。

品質を確かめる。安全を守る。動かし続ける。基盤の図に並んだのは、どれも技術者が長く積み上げてきた仕事だ。AIで作れる人が増えても、その仕事は軽くならない。むしろ、作られたものの数だけ重くなる可能性がある。

3. 顧客より先に、自社で試す

顧客への支援と並行して、JSOL自身も社内でAIの活用を進めています。三尾氏が紹介した「カスタマーゼロ」とは、顧客に提供する前に、まず自社で実践して確かめることです。自分たちの業務を実験の場にして、AIを前提にした働き方やシステムを検証していきます。

資料では、この取り組みの先にある変化を、従業員と会社、それぞれの立場から整理していました。従業員にとっては、迷わず仕事を進められ、本来の業務に集中でき、AIを使う経験も積めます。会社にとっては、生産性の向上や人材の育成が、顧客に提供する付加価値や競争力につながります。目標に掲げられていたのは、今まで以上の付加価値を、今まで以下の工数で生み出すことです。

編集部の読み 支援する側が、まず自分の業務を実験台にする。売る前に、自分で使う。

この順番の意味は、顧客に語る言葉の重さにあると本誌は考える。自社で試して手応えも壁も知っている会社と、知らない会社とでは、同じ提案でも中身が違ってくる。

読者の会社にも、置き換えられる問いがあるはずだ。顧客に届ける前に、自社のどの業務を「カスタマーゼロ」にできるか。

4. 帰る時間は、なぜ早くならないのか

ChatGPTを使うようになって、帰宅時間は早くなったのか。業務改革を説明する資料には、そんな身近な問いも載っていました。文章や資料を作る時間は短くなりました。それでも一日の忙しさが変わらないのはなぜか。三尾氏は、その背景として、今の業務プロセス自体がAIを使う前提になっていない点に触れました。

経理の例では、証憑を集め、不備を確かめ、仕訳を判断し、集計して月末に締めるまでの流れが取り上げられました。従来の仕事は、人が処理できる速さや働ける時間を前提に組まれています。一部分だけをAIで速くしても、仕事全体が同じ割合で速くなるわけではありません。

そこで資料が示したのは、AIが業務を担う姿から逆算して、プロセス、データ、システム、人の役割を見直すことです。情報収集や分析、業務の分岐、意思決定といった流れの中で、AIに何を任せ、人がどこに関わるのかを、あらためて考えます。今の手順にツールを足すのではなく、仕事の組み方から見直していきます。

編集部の読み 部分の速さは、全体の速さにならない。一つの工程を速くしても、詰まりは次の工程へ移るだけだ。「帰る時間は早くなったのか」という問いは、そのことを一言で突いている。

ただし本誌は、業務の組み直しを、収益の構造を変えることと同じものとは見ない。前者は効率化の仕事であり、それ自体が正しい仕事である。そのうえで、空いた時間を売上につながる仕事へ向けるには、まず仕事の組み方を変えておく必要がある。その意味で、組み直しは土台にあたる。

5. 空いた時間の使い道は、誰が決めるのか

対談で麻生が投げかけたのは、AIの導入やPoC(試行的な検証)が、なぜ事業成果につながりにくいのか、という問いでした。麻生は、収益を増やす取り組みでは、売上が出るまでに時間がかかり、AIの効果を切り分けるのも難しいと指摘しました。かといって効率化も、作業時間が減ればすぐ会社の費用が下がる、というほど単純ではないと続けました。

外注費が減るのであれば比べやすくても、社内の仕事が短時間で済むようになった場合は、その時間をどう使うかが残ります。麻生は、効率化したあとで人の配置を考える難しさに触れ、先に力を振り向けたい仕事を決めたうえで、そのためにどの業務を効率化するかを考える必要があると説明しました。ツール選びだけでは決まらず、経営の判断が関わる部分です。

三尾氏の資料の最後にも、部門ごとの活用から全社での利用に進むときの壁が示されていました。AIを理解して試す段階、既存の業務やシステムに適用する段階を経て、業務とデータの再設計やシステム同士の連携に取り組みます。全社計画やガバナンスも、その過程で必要になります。

編集部の読み ここでも順番が入れ替わっている。効率化してから時間の使い道を考えるのではなく、先に力を向けたい仕事を決め、そこから効率化する対象を選ぶ。

この話は、同じサミットで磐田市の草地博昭市長が語った「人をどこに配置するか」の記録とも重なる。本誌は別のケースノートで、AIの責任者は配置を決められる人でなければ機能しにくい、と読んだ(AIの責任者を、誰が担うのか。)。企業と自治体で立場は違っても、空いた時間の行き先を決めるのは、技術の担当ではなく経営の判断になる。


まだ答えの出ていないこと

本誌は成功事例を集めない。集めるのは、試みと判断の記録だ。このケースから、経営者に返したい問いを五つ置いておく。

  • 自社で「作れる人」が増えたとき、作ったものを届け続ける仕事は誰が担うのか。
  • 顧客に届ける前に、自社のどの業務を「カスタマーゼロ」にできるか。
  • AIで速くなった工程の次に、どこが詰まっているか。
  • 効率化の前に、空いた時間を向けたい仕事を決めているか。
  • 部門ごとの試みを全社に広げるとき、誰がその計画を持つのか。

本誌はこの記録をケースボックスに収め、続きを追う。


開示

本誌の発行元である AX for Revenue Institute は、株式会社アルファドライブに属している。同社はこのサミットの主催者である。対談の相手を務めた麻生要一は同社の代表取締役社長 兼 CEO/CAXO で、本誌の編集主幹でもある。開催レポートは、このセッションを次のように位置づけている。

サミットは、基調講演、JSOLとのパートナーセッション、磐田市長による地域AXのセッション、参加者ワークの4部で構成されました。

出典

『AX for Revenue Summit 2026 開催レポート』AX for Revenue Institute(axfr.ai、2026年10月公開)
https://axfr.ai/blog/ax-for-revenue-summit-2026-report

関連:本誌 CASE NOTE「AIの責任者を、誰が担うのか。」 https://journal.axfr.ai/articles/case-note-iwata-caio

Words
CAXO Journal 編集部
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約 8 分